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2013年09月06日

「探偵小説」・読んどけ通信 第6回「作者不詳 ミステリ作家の読む本」(著者・三津田信三)

久々にこちらの企画で取り上げさせてもらう作品は「作者不詳」

「ミステリ作家の読む本」という副題が付いています。作者は三津田信三さんです。

ずっと最新作を追いかけ続けるほどのファンというわけではなく、むしろ過去の一時期にちょっと注目していたことがあった……くらいのところに収まってしまうのですが、そんなふうに三津田さんの著作をいくらか続けて読んでみるきっかけとなった一冊が、この「作者不詳」でした。


この一つ前に出版された「ホラー作家の棲む家」が処女作だそうで、そちらも読んではいましたが、個人的にそこまで飛び抜けた面白さを感じたわけではありませんでした。

なので、次作となる「作者不詳」に手を出した動機は、自分の中で曖昧だったりします。
当時の新書(講談社ノベルズ)版のシンプルながら目を引く黒一色のカバーに加え、小口(背表紙の反対側)に「UNKNOWN」の文字が浮かび上がるという、なかなか凝った、あるいは"B級"な装丁に食指が動いたのかもしれません。

奇妙な古書店で手に入れた曰くつきのミステリ同人誌には怪異が宿っていた。

物語の主人公として登場する"三津田信三"が、古書業界で噂となっている"呪われた同人誌"を手に入れます。
そこにはミステリ風の短編が七作収められていますが、ミステリにしては結末の部分、すなわち謎解きが語られておらず、いずれも不可解な事件の状況だけが提示されています。

そして、物語を読むと、その内容に応じた"怪異"や"災厄"が、読者の身に降りかかるのです。
そこから逃れる方法は、作中の"謎"を解明することのみ……

というのが、基本的な物語の流れです。
三津田信三は、同じく同人誌を読んでしまった友人の飛鳥信一郎とともに、奇怪な"推理ゲーム"への挑戦を余儀なくされるのですが……

しかし、仮に謎を解けなかった場合、読者はどうなってしまうのか?

ただ一つわかっている事実は、これに関わった者が次々と行方不明になっていること。
そして、謎解きのタイムリミットは七日間……

襲いかかる怪異に戸惑い、時には立ち向かいつつ、全ての謎を解いた果てに待ち受けるものは何か?

……以上のような、簡単に書けば「出題編」と「解決編」を交互に繰り返しながら、奇怪な同人誌"迷宮草子"の呪いから如何にして逃れるかという、作品全体を通じた謎に迫っていく構成の本作ですが、収められた七つのストーリーには素晴らしいものが多く、本格ミステリの短編集として楽しむことが出来ました。

見世物小屋から消えた赤ん坊/残酷で屈折した高校生らが鏖殺された事件の恐るべき記録ノート/無惨に切断された首が招く無人島の殺戮。
本格に徹した幾多の謎に現実は絡めとられ、身の毛もよだつ終幕が襲う。


どうです?
この裏表紙の作品説明だけでも、たまらなく面白そうな感じがしませんか?

少なくとも私は、先述した特徴的な装丁以上に、この説明文に惹かれて本書をレジに持って行きました。

で、肝心の内容ですが、こちらで取り上げさせてもらっている時点でお察しのつきます通り、これが実に面白かった!

本作全体の構成、すなわち「独立した短編で謎の提示」→「それに応じた怪異が発生」→「三津田信三(作中人物の)と飛鳥信一郎がディスカッションしつつ、謎の解明に挑む」という形がハッキリしてくる第二話「子喰鬼縁起」で、謎の核心部分について様々な可能性・解釈が次から次に示される"推理パート"の醍醐味、そして寂寥感の溢れるラストへと至る展開を見せられ、一気に作品世界に引き込まれて以降、ページをめくる手の止まらない至高の読書体験でありました。

作中作で印象深かったものを挙げさせてもらうなら、「朱雀の化物」は私好みのトリックが綺麗に決まり、収録されたうちで個人的にベストといえる傑作短編でした。

"迷宮草子"によってもたらされる呪いという、不条理で非現実的な要素を持ちながら、謎解きの部分はあくまで本格に徹するところが私の趣向にガッチリ合いました。


改めてウィキペディアなどを見てみると、三津田作品の特徴の一つは、ホラーなのかミステリなのかラストまで判然としない作風だとの認識があるようで、そういえば次に刊行された「蛇棺葬」「百蛇堂」はホラー寄りの色合いが濃く、個人的には今一つ肌に合わない感じに思えてしまったものでした。

が、しかし、他の代表作である一連の「刀城言耶シリーズ」、あるいは「死相学探偵シリーズ」などにほとんど手を出さず、私が三津田作品から遠ざかることとなった理由はまた別にあります。

デビュー作である「ホラー作家の棲む家」をはじめ、"三津田信三"を主人公とする作品を読み進めるにあたり、私の脳内ではある変換が行われていました。

私のように大阪で生まれ育った人間が「三津田」という、わりと特徴的な姓から連想されるものは何でしょうか?

大阪で生まれ育った人間ならば、言うまでもなく例外なく確実に間違いなく、三津田姓から漫才師の"トミーズ健"こと三津田健さんを連想することは論を待たないでしょう。


そして、作中人物の三津田信三の容姿が、イメージの中でトミーズ健に変換されていくのも、致し方ないところだと思われます。


「シェルター」でも、やはり私の脳内での三津田信三はトミーズ健でした。
先ほど、今一つ肌に合わなかったと述べた「蛇棺葬」と「百蛇堂」も、個人的には冗長に感じて読むのが辛かったのですが、これも健ちゃんパウダー的な信ちゃんパウダーによるものだと考えれば、とりあえず納得して読み進めることが出来ました。

実は「作者不詳」でも、謎の提示と解決の間に、信三(=健)が怪異に遭遇してあたふたするパートが挿入されるくだりはやや冗長に思えたりもしましたが、やはり信ちゃんパァ(↑)ウダーなら仕方がないと納得させられました。

そして、トミーズが東京進出して「いいとも」のレギュラーをやっていた頃、なんかニックネーム的なものを考えるコーナーで、マタマタという種類の外国産のカメに、「トゲトゲ亀頭くん」と命名して客席をドン引きさせた一幕などを思い出し、いつしか脳内で健そのものと化した作中の信三も何かやらかすのではないかとハラハラしたり、怪異に襲われた末に身ぐるみを剥がれてトランクス一枚になりつつも、自分をいじってくれたことに礼を述べる姿などが想像され、読書体験をよりスリリングなものにしてくれました。

また、かつてトミーズが司会を務め、アクティ大阪15階のエキスタから生放送されていた「うぉんてっど!」の中の、健さんが視聴者からの依頼(大半は雑用)に応える「スーパー健ちゃん」のコーナーで、青野敏行さんと絡んでいた様子が(長時間のロケのためか、最初は小芝居していたのがグダグダした感じに変わっていく)、本作での信三と信一郎の絡みにオーバーラップして、とくに「娯楽としての殺人」の謎解きで二人があんなことやこんなことになる展開では、リアルな疲弊感を醸し出すのに一役買ってくれました。
あと、本作と直接的な関係はありませんが、同番組には放送作家時代の百田尚樹さんが「百田事務所の持ち込み企画」と題したコーナーで、顔出しで出演されていたのも大阪の人間には馴染み深いエピソードかと思われます。

そんな感じで三津田作品の主人公が信三の場合は脳内ビジュアルが健になるという置き換えが定着し過ぎたため、刀城言耶とか弦矢俊一郎とかに馴染むことが出来ず、他のシリーズを喰わず嫌いしたまま現在に至っておりまして、正直に白状しますと、この「作者不詳」が文庫化された際に大幅な改稿が行われ、結末が全く違うものになっている事実を、当記事をまとめるにあたって初めて知りました。

到底、作者および作品のファンを標榜出来ない程、疎遠になっていたわけです。

改稿されたという文庫版の内容に対して、にわかに興味が出て、これはこの機会に読まねばなるまいと近所の書店に向かいましたが、並んでいるのは刀城言耶シリーズが中心で、店頭で入手することは叶いませんでした。
まあ、本気ですぐに読みたいならアマゾンなどの通販で買えば済むことですが、こういう「思い立って行動したけど空振りだった」ことに対して、三津田さんの作品とは縁遠くなったのかも……などと非常に身勝手な解釈をしてしまっている自分がいます。

ただ一方で、この機会に久しぶりに三津田小説を、それも作者にとっての看板作品である、刀城シリーズをひとつ読んでみるかと思い立ち、それでも長編をまるまる一冊読むのはどうにも重い感じがしたので、中短編が四作収録されて、刀城言耶という探偵役(本職は探偵ではありませんが)の活躍をいろいろと楽しめそうな「密室の如き籠るもの」を買ってみました。


これをきっかけに、私は再び三津田作品を読むようになるのでしょうか?
posted by うずランド at 00:19| Comment(0) | TrackBack(0) | 「探偵小説」・読んどけ通信 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2012年05月19日

「探偵小説」・読んどけ通信 第5回「陰膳」(著者・夏樹静子)

動き出したとはいえ、どうにも制作の方は以前のペースが戻らず、なかなか歯がゆい思いが続いております。
もちろん、私にとっての「以前のペース」とは、そうそう調子よく進むという意味ではありません。
むしろ、一日一日の作業では、いかに「これっぽっち」のことしかできないかを自覚し、ノソノソと這うドン亀の甲羅に塵が積もっていく様子を、できるだけフラットな心で見守るということです。

で、そんなフラットな心を維持するべく、久しぶりにこちらの企画をやらせていただきたいと思います。
行きましょう!
「探偵小説」読んどけ通信!!


今回、ご紹介させていただきますのは夏樹静子さんの短編「陰膳」

タイトルの陰膳とは、何らかの理由で家を離れている人の無事を祈る意味で、その家族が食事をとる際、不在の人の分も用意される食膳のこと。

仲睦まじいおしどり夫婦と近所で評判の、末森夫妻の食卓では、行方のわからなくなった息子のために、小さな陰膳を据えることが続けられていました。

夫妻の子供は幼稚園の送迎バスを降りてから自宅までの、ほんのわずかな距離の間で消えていたのです。
神隠しに遭ったように。

ところで、末森夫妻はどちらも再婚者だったのですが、二人の過去にはもう一つの共通点が……


非常に落ち着いた、あるいは地味な雰囲気で淡々と語られる作品で、謎解きも主人公が一人称で語り進める中、「真相はこういうことではなかったのか?」と考えを巡らせるだけで終わるのですが、その「真相」が提示された瞬間、何かこう総毛立つような、読後に尾を引き続ける怖さが生まれます。



探偵小説よりもホラー小説を読むことの多かった学生時分に手に取った、角川ホラー文庫のアンソロジー「悪夢十夜」に収録されていたことが、この「陰膳」との出会いでした。
先にも述べた通り、ホラーの短編集に編まれてもおかしくない、静かでありながら強い恐怖を覚えさせる作品だと思います。

この作品の怖さとは、「虫も殺さぬような」という表現の似合う、どこから見ても善人と思われる人間が、誰にも気取られることなく狂気を抱え続けている……といった感じのものだと考えられます。

ただ、今回の記事を書くために再読してみたところ、初めて読んだ時には感じられなかった、「もう一つの狂気」とでもいうべきものの存在に気がつきました。
私が思いますに、その「狂気」の持ち主はズバリ、一人称の語り手である主人公の主婦に他なりません。

自分の子供を突然の事故で失った喪失感や、それ以来、夫との仲がギクシャクしたものになって、一人で家にいても寂しいだけみたいな事情もありますので、ことさら主人公の行動を不自然と決めつけさせないだけのフォローはされていますが、それでも「子供の死をきっかけに冷えていく家庭」の現在を物憂げに語る冒頭からは想像できないくらい、「捜査パート」に入ってからの行動力はものすごいです。

「わたし、気になります!」とでもいったところでしょうか。

しかし、こちらのお嬢様と違って、謎解きをしてくれる探偵役はいません。
ならば、テメェがやるしかないだろう!?
気になったことは徹底調査あるのみ!!

「容疑者」の昔の住所で聞き込みだっ!
役所にも出向いて情報を集めろっ!
主婦探偵による、執念の調査の果てに浮かび上がった驚愕の真実とはっ!!??


余談ながら、この「陰膳」は火曜サスペンス劇場で、1995年にテレビドラマ化もされていたようです。

→「陰膳 幸せ一杯の姉が突然失踪! 再婚する義兄への疑惑を深める紫陽花の色」のデータはこちら
ラベル:夏樹静子
posted by うずランド at 12:53| Comment(0) | TrackBack(0) | 「探偵小説」・読んどけ通信 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2012年02月28日

「探偵小説」・読んどけ通信 第4回「満月が永遠に続けば」(著者・浅木原忍)

さて、「探偵小説」読んどけ通信、今回の一冊は普通に出版されているものとは違う、いわゆる同人小説について書かせてもらいたいと思います。
それも、東方Projectを題材とした二次創作小説です。

この記事を書くことに手を着け始めたのは、ちょうど第9回東方シリーズ人気投票の受付が開始された頃合であり、それにちなんで東方ネタを……みたいな意図がなくはありませんでした。
しかし、無理に東方絡みの作品を持ってこようというわけではなくて、もともとこの作品はいつか近いうちに、是非とも当企画で取り上げさせてもらいたいと考えていた一冊だったのです。

作品のタイトルは「満月が永遠に続けば」、作者は浅木原忍さん。
浅木原さんは「東方野球in熱スタ2007」の合同企画誌なども手がけておられる方です。
私が日本橋の同人ショップで「満月が〜」を購入するに至ったのも、作者名に見覚えがあったことが一つのきっかけではありました。
しかし、ただそれだけの理由で、それまであまり馴染みのなかった小説媒体の二次創作物を購入したわけではなく、過去に一応、小説を書く真似事をしていたような性癖のある人間として、やや気まぐれ的に「わりと気合いの入った装丁で、ショップに委託までしてる同人小説というのはどんなものなのか?」という興味によるところが大きかったです。
それで、愛着ある東方野球で見かけたことのあった浅木原さんのお名前が目にとまったものですから、一つこれを読んでみようかな……と。
裏表紙などに簡単な内容が記されているようなことはなく、完全に「作者名買い」でした。
で、帰宅してから表紙をめくり、カバーの折り返しにあった作品内容の紹介文を読んでみたわけですが……

さようでございます。あの死骸を見つけたのは、わたしに違いございません。

有名な短編「藪の中」(著者・芥川龍之介)の冒頭に続いて、

郊外の竹林にやってきた蓮子とメリーは、その奥にあった屋敷で、武田かぐやと名乗る美しい少女と出会う。

(中略)

「かぐやは、私が殺したんだ」
「ともちゃんは、私が殺してしまったの」
 --それはまるで『藪の中』のような、不可解な殺人の告白だった。

芥川の残した『藪の中』の真相と、15年前の一家焼死事件。ふたつの謎は絡み合う。
 誰が死に、誰が殺したのか。


これはっ!
もしかしてミステリなのか!?

まったく内容に対する予備知識なし(秘封倶楽部を主役に据えた二次創作であり、裏表紙のイラストとタイトルから輝夜と妹紅が絡んでいるらしいとわかる以外は)で購入したわけでしたが、探偵小説大好きな私としては、それだけで俄然、盛り上がってきました!
失礼ながら、本当に失礼ながら、あまり内容には期待せずに買ってみたというのが正直なところでした。
それが一転、「これはもしかすると『大当たり』を引いたのではっ!?」というワクワク感が高まったのです。

果たしてその内容は、期待を裏切ることのない素晴らしい力作でした。
「藪の中」の事件をミステリとして捉え、その謎解きをしようという試みがある事実は知っていましたが、具体的なものに触れるのは初めてだった私にとって、そこの部分からして新鮮な感覚で楽しめましたし、それと平行して本作の謎である前述の一家焼死事件に絡んだ、「二人の女性がかつて、お互いを殺し合ったと語る矛盾」が提示される構成は見事なものでした。

東方の二次創作とはいえ、現代(っぽい雰囲気の残る近未来)を舞台に秘封倶楽部の二人が主役に据えられ、それ以外のキャラクターが直接的に登場することはありません。
東方キャラをモデルとした人物は多数登場しますが、原作のゲームおよびファンの間で定着している二次設定の知識はなくとも、本作は探偵小説として問題なく楽しめると思います。

本作は一度、前後編の形で送り出された後、加筆修正を経て一冊(388ページの大ボリューム)にまとめられたとのことです。
後書きで浅木原さんも書いておられましたが、本格ミステリとしては謎解き部分にややアンフェアだったりギリギリだったりする面があると捉えられるかもしれません。(その部分を補強するために加筆修正されたところが大きいようです)
私の場合、この企画の最初に述べておりますような私的「探偵小説」観(→参照)は「本格」であることにこだわらないため、ほぼ問題なく楽しめました。

メリーを狂言回しとして一人称でストーリーは進められ、蓮子が水際立った名探偵ぶりで鮮やかに謎を解き明かす、(おそらくは)異色の東方二次創作小説。
個人的に、優れた東方の二次創作に触れた後は、そこで扱われていたキャラクターに対する愛着が増すものですが、この作品をきっかけに私の中の「秘封倶楽部株」が急激に上がったことは言うまでもありません。

また、とてもおもしろい作品であるわりに、読み終えるまでにやや長く(約二週間ほど)期間を要した一冊でした。
最初に読み始めた日、一気に読み切ってしまうだけの時間がなかったことに端を発するのですが、その後、続きは短い時間で細切れに雑な読み方をせず、じっくりと味わって楽しみたいという感覚が強かったのです。
これまで娯楽小説を読んでいて初めて覚えた感覚でした。

浅木原さんは「少女秘封録」シリーズを他にも手がけられており、全てがミステリというわけではなさそうですが、他作品もぜひ読んでみたいと考えています。
とくにこの記事を書いている現在、浅木原さんのサイトのトップにバナーが貼られている「愚者のタイトルロール」、これは明らかに米澤穂信さんの「愚者のエンドロール」のオマージュですね。
ものすごく興味があります!

→浅木原忍さんの「Rhythm Five」はこちら
posted by うずランド at 18:14| Comment(0) | TrackBack(0) | 「探偵小説」・読んどけ通信 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2012年01月21日

「探偵小説」・読んどけ通信 第3回「X雨」(著者・沙藤一樹)

さて、第三回目となります「探偵小説」・読んどけ通信
過去二回は作中の舞台やストーリー全体の雰囲気、そして実際の細かな文章表現に至るまで、文句なしに私の琴線に触れまくった作品を紹介させていただいており、この企画の主旨を考えるなら、当然そのようになるべき事柄ではあるものの、今回は私的に必ずしも全てが100点満点ではない作品を、あえて取り上げさせてもらいたいと思います。

当ブログで何度か回想していますように、かつての私は作家を志し、拙い文章を書いて(は気力・体力が続かず、冒頭だけの尻切れトンボなものを大量生産して)おりました。
夢を実現するため、がむしゃらに、そして真摯に努力していたとは決して言えない姿勢ではありましたが、そんな中、本質的な部分から外れたことではあるものの、文章表現上で妙なこだわりを持っていた事柄があったりします。
それは……
「雨の描写」でした。

湿り気を帯びて臭いの変わる空気、トタン屋根を弾く雨音、地面の水たまりに生まれては消える波紋……

しとしとと降り続く長雨、にわかに激しくぶちまけられる夕立、パラパラとした雨粒が日の光を照り返す「狐の嫁入り」……

言葉を尽くして雨の情景を切り取ることに、貧弱な文章力の多くを注ぎ込んでいたものでした。
そんな私でしたから、書店の新刊コーナーに、それも当時はよく読んでいたレーベルである角川ホラー文庫の一冊として、「X雨」のタイトルを発見した瞬間、反射的に手を伸ばしたことは当然といえるでしょう。


一月のある快晴の朝、小学生の里緒の前に一人の少年が現れた。
何故かレインコートを着ていた少年はフードをとり、潰れた右目をあらわらにすると、自分には見えるという、“X雨”のことを話しはじめた―。
15年後、作家になった里緒は記憶に刻まれたこの話しを書き始めた。そして、物語の結末を完成させるため小学生時代を過ごしたあの街へ出発するのだが…。



!!
!!!
こ、これはっ!?
なんというか、メチャクチャ面白そうです!!


私の趣味趣向と琴線にクリティカルヒットする完璧な「つかみ」でした。少なくとも私にとっては……
0.1ミリ秒後には迷うことなくレジに直行していました。

さて、肝心の内容ですが……
読後感を一言で表現するなら「どんより」。
光線の陰った肌寒い空気の中、雨は降り止まず。
それも勢いよく降っているのではなく、霧のような雨が頭髪や衣服を濡らし続ける感じ。
辺りの色彩は灰色。体温が奪われていく……

そんな印象を受けたことを覚えています。
論理による謎解き要素もあるホラー+暗いファンタジーといったところですが、結末は実に不透明です。
必ずしも「よかった!」とか「おもしろかった!」とかいう感想でないばかりか、ともすれば「ちょっと期待外れ」であったかもしれないのですが、不思議にジワジワと後を引き続ける読後感でありました。

この一冊をきっかけにして、「沙藤一樹」という作家の名前は私の意識に刻みつけられました。
しかしながら、作者と私との間には「きっかけ」はあっても「縁」はなかったようです。
日本ホラー小説大賞短編賞を受賞したデビュー作「D-ブリッジ・テープ」を読んだのみで、それ以上に作品を追いかけることはしていません。
「プルトニウムと半月」「不思議じゃない国のアリス」も、書店で手に取ってみることはしたものの購入には至りませんでした。
現時点で作者にとって最後の商業出版作品である、2004年に出ていた「新宿ミルク工場」は存在すら知らなかったです。



「X雨」の主人公は作家であり、作中で同名の小説を書いているという、いうなればメタ小説(?)っぽい構成なのですが、編集者(作中の)からの手紙だったか電話だったかで「『X雨』でブレイクは難しいと思います」との指摘がなされていました。
それが現実の作者・作品とどこまでリンクしているかは想像の域を出ませんが、角川ホラー文庫での作品は「X雨」が最後になっています。

ネット上で「X雨」のみならず、ファンの方による沙藤作品の評価を見てみると、その作風を評して「曲芸」「変態的に天才」などといった言葉が使われており、この作者の持つ特異性がうかがえました。
また、ある人は「沙藤一樹は救いのない物語ばかり書いているが、もう少し違う感性をしていたら、乙一のようなポジションでスターダムにのし上がれていたかもしれない」という意味のことを述べておられました。
商業作家としてブレイクしきれなかった異能の天才……ということになるのでしょうか?

正直、沙藤さんは筆を折っておられると思っていたので、この記事を書くために少し検索して初めて知りましたが、大手出版社から作品が出ることは途絶えているものの、現在でも執筆活動を続けられているようです。
2010年には自主出版で「リコシェと振り子」を発表され、今後は電子出版での作品展開を考えておられるようです。

→「KAZSAT SITE 沙藤一樹 ホームページ」はこちら

このところ、私は読書に割いていた時間を英語学習に充てているので、なんとなく興味を持った本(主に小説)を買うことがなくなっています。
とりあえず今の状況が続く限り、「X雨」のごとき怪作に出会う機会はなく、やや寂しいところではありますが、いくつものことを同時にはこなせず、趣味においても取捨選択を行わざるを得ない私のことですから仕方がありません。
ラベル:沙藤一樹 X雨
posted by うずランド at 16:17| Comment(0) | TrackBack(0) | 「探偵小説」・読んどけ通信 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2011年11月28日

「探偵小説」・読んどけ通信 第2回「東京少女〜ぼくとオタとお姫様の物語」(著者・七重俊)

先月から始めてみましたこの企画、もともと機会があればブログの話題に取り上げてみたい考えでいた、個々の作品がいくつかあったのですが、このような「企画」としてカテゴリを新設したのは、わりと思いつきによるものだったりします。

以前、同じく企画っぽい体裁でやらせてもらった電脳空間廃墟探訪(→参照)は、書きたかった分を書いてしまった後、ブログ記事にするがためのネタさがし、それも休止・放置状態の創作系ブログを意識的にさがす行為に気が乗らず、ひとまず置いたままになっているわけですが、こちらの「読んどけ通信」は細く長く、可能なら月イチくらいで続けられたらいいなと考えています。

さて、少し前に映画化やテレビドラマ化されるなど、一大ブームとなった「電車男」を皆さんは読まれましたでしょうか?
この「電車男」には個人的にちょっとした思い出がありまして……

かつての職場で前の彼女と出会い、初めて「職場以外の場所で一度、会ってもらえませんか?」的なことを伝えるにあたって、そういう行動に出るための景気づけ(?)のつもりで同書を購入し、なんというか背中を押されたような気分を自分の中で勝手に盛り上げたものでした。

さておき、「電車男」のヒットがそもそもの起源なのかどうかは別として、それ以降、「スレッド文学」という単語を見たり聞いたりする機会が増えました。
2ちゃんねる発もそれ以外も、あるいはウェブ上の掲示板っぽい体裁の創作も含めて、様々な作品が書店に並び、ちょっとしたブームが起こっていたかと思います。

今回、ご紹介させてもらいたい一冊、「東京少女」もそんな流れに乗って刊行されたであろう、2ちゃんねるのスレッドを出所とする作品です。
書店で、この本を手に取ったのはまったくの気まぐれでした。「東京少女」という、なんともプレーンなタイトルが逆に目を引いたのかもしれません。
帯のコピーには、
ぼくとオタとお姫様の物語。
夏のある日、巨大掲示板に書き込まれた短い文章。クリスマスイブ…渋谷の街…デートクラブの美少女とモテナイ男。それは、これから3か月にわたって綴られてゆく、切ない純愛ストーリーのはじまりにすぎなかった。自称もてない男たちを感動の渦に巻き込んだ、切ない恋。2ちゃんねるで綴られた、純愛ストーリー。
ネットには書かれなかった衝撃の結末!



「電車男」ブームにあやかろうというのか? などと思いつつ、何となく表紙をめくって最初の一行目を読みました。

クリスマスイブにデートの娘を買ったことがある。
Hなしって条件。拘束時間は明け方まで。
高いなぁと感じつつ、綺麗だからまあ仕方ない。
食事して映画みて、少し飲んで、場所を変えてまた飲んで。
話が弾んで楽しくてあっという間に明け方になった。


なんというか、波長が合ったようです。
たちまち筆者の語る物語に引き込まれて、序章のあたりを読み終えると、本を持ってレジに直行しました。
まったく予備知識なしに店頭で見かけたことをきっかけに、これはおもしろそうだ、という予感めいたものから衝動的に本(多くは小説)を買うことを、どこか「その本に呼ばれた」みたいに感じるところがあって、それは学生時分から変わっていません。
ところが、そうやって「呼ばれて」買った本が、実際におもしろいことは珍しかったりします。
そして、この「東京少女」は自分の読書歴で例がないくらい、前評判も題名も知らず、その場の思いつきで購入したのが大当たりだった一冊なのでした。

デートクラブで知り合った「お姫様」に惹かれる主人公は、ふとした出来心から、彼女のバッグに入っていたフロッピーディスクの中身を見てしまう。
何やら意味のわからない英文のテキストに、これまたすぐには意味のわからないエクセルファイル。
友人の「オタ」の解析を頼りに、「お姫様」に隠された秘密と過去が浮かび上がる?


フロッピーディスク、というのがやや時代を感じさせます。
書籍が発売された当時に書かれたウェブ上の文章を眺めると、「『電車男』の次に来るのはコレだっ!」みたいな内容が多く見受けられました。

果たして、「電車男」ほどの波が来なかったことは、改めて述べるまでもないでしょう。

「東京少女」は本当に実話なのか? 書き手は何処の誰だったのか?
出版から年月を経た今になっても、それらは公にされていません。
個人的には、この話が全て実話だとは、とても考えられないのが正直なところです。

作者自身も作品の中で、「実体験を小説っぽくまとめたもので、脚色も入っている」という意味の前置きされています。

知恵袋でありデータの解析役である、友人の「オタ」が医大出身の引きこもりとか、ちょっと便利なキャラクター過ぎると思ったりもしました。

が、これは「電車男」を読んだ時にも感じたのですが、読み進めていくうちに、この話がどこまで実話だかなんて別にどうでもよくなりました。
「東京少女」は読み応えのあるおもしろい物語で、間違いなく私が考えるところの「探偵小説」でした。
→私の考える「探偵小説」の括りについては、前回をご参照下さい。

デートクラブの「お姫様」を両親のいる実家に(昔の級友だと偽って)連れて帰るという、普通ならあまり考えられなさそうなシチュエーションで語られる「セントポーリアの鉢植」を巡るエピソードなんかは、ストーリーの主流たる大きな謎解きに進む前に、「お姫様」の機知を示す演出として過不足がないですし、主人公と二人で「思い出の公園」を再訪した折の描写は、心憎いまでに美しく切なかったです。
そして、夢のような正月休みの数日の後、「お姫様」は底知れぬ巨大な闇(?)に……

まったく思いがけない形で、おもしろい「探偵小説」に出会うことができて幸せでした。


↑漫画化もされていた事実を初めて知りました。
ラベル:東京少女 七重俊
posted by うずランド at 19:37| Comment(0) | TrackBack(0) | 「探偵小説」・読んどけ通信 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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