もちろん、私にとっての「以前のペース」とは、そうそう調子よく進むという意味ではありません。
むしろ、一日一日の作業では、いかに「これっぽっち」のことしかできないかを自覚し、ノソノソと這うドン亀の甲羅に塵が積もっていく様子を、できるだけフラットな心で見守るということです。
で、そんなフラットな心を維持するべく、久しぶりにこちらの企画をやらせていただきたいと思います。
行きましょう!
「探偵小説」読んどけ通信!!
今回、ご紹介させていただきますのは夏樹静子さんの短編「陰膳」。
タイトルの陰膳とは、何らかの理由で家を離れている人の無事を祈る意味で、その家族が食事をとる際、不在の人の分も用意される食膳のこと。
仲睦まじいおしどり夫婦と近所で評判の、末森夫妻の食卓では、行方のわからなくなった息子のために、小さな陰膳を据えることが続けられていました。
夫妻の子供は幼稚園の送迎バスを降りてから自宅までの、ほんのわずかな距離の間で消えていたのです。
神隠しに遭ったように。
ところで、末森夫妻はどちらも再婚者だったのですが、二人の過去にはもう一つの共通点が……
非常に落ち着いた、あるいは地味な雰囲気で淡々と語られる作品で、謎解きも主人公が一人称で語り進める中、「真相はこういうことではなかったのか?」と考えを巡らせるだけで終わるのですが、その「真相」が提示された瞬間、何かこう総毛立つような、読後に尾を引き続ける怖さが生まれます。
探偵小説よりもホラー小説を読むことの多かった学生時分に手に取った、角川ホラー文庫のアンソロジー「悪夢十夜」に収録されていたことが、この「陰膳」との出会いでした。
先にも述べた通り、ホラーの短編集に編まれてもおかしくない、静かでありながら強い恐怖を覚えさせる作品だと思います。
この作品の怖さとは、「虫も殺さぬような」という表現の似合う、どこから見ても善人と思われる人間が、誰にも気取られることなく狂気を抱え続けている……といった感じのものだと考えられます。
ただ、今回の記事を書くために再読してみたところ、初めて読んだ時には感じられなかった、「もう一つの狂気」とでもいうべきものの存在に気がつきました。
私が思いますに、その「狂気」の持ち主はズバリ、一人称の語り手である主人公の主婦に他なりません。
自分の子供を突然の事故で失った喪失感や、それ以来、夫との仲がギクシャクしたものになって、一人で家にいても寂しいだけみたいな事情もありますので、ことさら主人公の行動を不自然と決めつけさせないだけのフォローはされていますが、それでも「子供の死をきっかけに冷えていく家庭」の現在を物憂げに語る冒頭からは想像できないくらい、「捜査パート」に入ってからの行動力はものすごいです。
「わたし、気になります!」とでもいったところでしょうか。
しかし、こちらのお嬢様と違って、謎解きをしてくれる探偵役はいません。
ならば、テメェがやるしかないだろう!?
気になったことは徹底調査あるのみ!!
「容疑者」の昔の住所で聞き込みだっ!
役所にも出向いて情報を集めろっ!
主婦探偵による、執念の調査の果てに浮かび上がった驚愕の真実とはっ!!??
余談ながら、この「陰膳」は火曜サスペンス劇場で、1995年にテレビドラマ化もされていたようです。
→「陰膳 幸せ一杯の姉が突然失踪! 再婚する義兄への疑惑を深める紫陽花の色」のデータはこちら
タグ:夏樹静子
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